微細藻類紹介

褐色の凄いヤツ<前編>

2016.06.02

昔話で恐縮だが、わたしの学生時代は第二次大戦末期で、四国のある中都市にある化学工場の研究部に動員学徒として働いていた。食糧の貧しいそこのころ、珍しくビスケットが配給になった。

とまどうような気持ちで一口食べたが、なんとも変な味である。
当時のことだから甘くないのは予想していた。しかし、カリカリした舌ざわりが普通でないのである。

そこで、唾で柔らかくした小片を近くの顕微鏡で見ることにしたのだが、わたしは、そのときの感激が忘れられない。実に見事な蜂の巣状の模様の刻まれた珪藻の殻がそこにあった。

ビスケットの原料の何割かは小麦粉ではなく、珪藻土とよばれる泥であった。砂を噛む思い、とはこのことであろうか。しかし、若かった私たちは日本の食糧の不安を考えるよりは、珪藻の殻の模様の美しさと、ささやかな発見に素直にはしゃいでいた。

(巌佐 耕三 著 珪藻の生物学/東京大学出版会より引用)

 

 

 

 

冒頭のノスタルジックな文章には本日皆さんにご紹介する珪藻類という藻類の仲間の情報がうまく集約されています。タイトルにあるように、この藻類は緑色をしておらず、褐色と言いますか、茶色を呈しています。

 

マスコミで取り上げられる機会の多いクロレラやユーグレナ、スピルリナは緑色をしているので
意外に思われる方がいらっしゃるかもですが、日本人に馴染み深い海藻の色と言うと
わかりやすいかもしれないですね。

この珪藻の殻の化石の堆積物はいわゆる珪藻土と呼ばれ、吸湿剤やろ過助剤、建材として活躍していますが、さすがに今でも小麦粉の代わりに食品原料として使われているという話は耳にしません。

人間はもう直接食べることをしなくなりましたが、珪藻類は貝類などの養殖のエサとして使われていることが多く、各地の水産試験場や養殖場で培養されているケースもよく目にします。
その貝を私たちが食べるので、今でも間接的にですが珪藻類を食べていることになりますね。

そういう意味で人間社会との付き合いはとても古く、現在でもその活躍の場が最も多い微細藻類は実は珪藻ではないでしょうか。

養殖のエサとして使われるくらいなので、特に海産種の培養に関するノウハウは比較的豊富に蓄積しています。

たくさん増やすことが出来るのなら、そこからバイオ燃料となる物質を抽出して実用化に繋げられるのではないか? 実はこうした考えに基づいたプロジェクトが既に動き出しています。

私たちパナックアドバンス株式会社微細藻類事業は、このたび国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)のプロジェクト、先端的低炭素化技術開発(ALCA)の研究グループの一員に加えていただける
こととなりました。

微細藻類を培養し、バイオ燃料とそこから生み出されるカーボンニュートラルな物質の活用を通じて地球温暖化の抑止に少しでも貢献したい。私たちの技術がこの目標の達成に少しでも寄与できるのであればこれ以上の喜びはありません。

次回<中篇>はこのプロジェクトに関係して、褐色に隠されたヒミツのお話をしたいと思います。

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